函館とロシアの交流の歴史について研究している、函館日ロ交流史研究会のページです。 このページは、会報をはじめ、これまでの刊行物や活動成果を公開しています。

青森公立大学でのロシア語数育

2012年4月24日 Posted in 会報

A.A.トルストグーゾフ

 私は、青森公立大学の開校時からロシア語を教えている。父は、軍医で両親ともロシア人である。父の職業柄、転勤が多く、私はウクライナで生まれた。極東のワニノ港で勤務しウラジオストークへ移ったことから、私は極東国立大学に入学し5年間学んだ。その後、ウラジオストーク・モスクワの科学アカデミーに入り、生涯の半分を極東で生活することになった。
 本日は、日本の生徒の性格と日本の教育について私自身の意見を述べたい。地元の外国人の意見も参考になるかもしれませんね。青森公立大学の学生のロシア語のレベルには満足しているとは言えない。英語の教員も同じ意見をもっている。いかに効率的に教育させることができるか皆様と懇談したい。
 日本の学生の能力が低下していると言われているが、ある新聞の記事で大学の学長さんたちが「その原因のひとつに、文部省のゆとり教育がマイナスとなった。また、受験料目を減らしたことが、一般教養・思考能力の低下につながった。」と言っている。しかるに、ゆとり教育の見直しや受験料目を増やしたら、ロシア語教育には役立たないと思う。英語学習は6年間だが、ロシア語教育はゼロからのスタートなのである。
 日本の教育は量的なものだけを考 えている。例えば、「学力」という言葉の意味は日本では「知識の水準・学識・博学」だが、ロシアでは「勉学するための方法・能力、知識のレベル」である。ロシアの小咄に「入学生と卒業生の違いはと問われ、卒業生は知識を持っているのではなく、データを探す場所を知っている。」というのがある。
 日本の学生の教育に対する努力が足りないと思うのは、学生の勉学への動機・目的が無いからである。青森公立大学の学生に、将来の仕事はと問うと「女優、国家公務員、等々になりたい」と返事が返ってくるが、「マーケッティングの専門家、証券のディーラー」という回答はない。何のために、経営・経済学部に入ったのだろう。
 日本は学歴主義。日本人は自己紹介するとき、○○○会社の○○○地位であると言うが、ロシアでは、○○○専門だから○○○の地位にいると言う。青森公立大学は語学選択制を採っており、英語から逃げた学生がロシア語を選択している傾向がある。また、卒業するためにたくさん単位を取得するが、興味ある科目でなく、比較的楽に単位がとれる科目を選択しているようだ。ロシアでは、まず早くに将来の仕事を決めて科目を選択する。
 日本の教育はお金をたくさん使っている。例えば、青森市の予算はウラジオストークの20倍で、公立大学の図書館には最新の情報が集まっており、パソコンのソフトは山のように、ビデオもたくさんあるが、学生は活用しているとは思われない。私はこのような経費はもったいないと思う。日本は豊かだから、学生は経済のことを余り話題にしない。
 アルバイトについて、日本では学んだ知識と関係ない内容のアルバイトをするが、ロシアでは学んだ知識を生かしたバイトをする。私個人の経験ですが、大学2年時、千島列島の日ソ共同漁業協定区域で検査員の通訳として、サケ・マスの量、網の種類・サイズなどについて、日本人の漁師に聞き取りするのだが、彼らの日本語は全然分からなく、検査員は日本語はゼロなので、だれも助けてくれないから、辞書をポケットに入れ、地獄のようであった。このように、3ヶ月のバイトのおかげで、ある者はモスクワの国立インツーリストに就職したり、漁業公団に勤める者もいた。アルバイトでも全責任を負わされた。
 私の長女は、三年前に来日し現在、高校三年生だが、「日本の学校教育は暗記中心だ」と言っている。ロシア人は間違えてもいいから、考えを伝えようと話をする。日本人は黙っているし選択された話題については話すが、テーマがないと表現はへたなようだ。
 日本人の学生はとても子供っぽい。ここにいるイワン君はネクタイを着用しているが、ロシアの学生では一般的である。規則などはないが、大人としての責任を自覚している。また、こちらの学生は生活の中で、政治・経済に関心がないので、科目の消化は難しい。
 私の造語で「師匠主義」というものがある。日本では、先生の教えに生徒は従順だが、ロシアでは先生と生徒はいっしょに勉強し先生はアドバイスをし、お互い議論をする。それは発言力を育てることになる。講義をしていても、反応がないので理解しているかどうか分からない。動機づけのない勉学では問題解決能力は育たない。また、先生が教えたこと以外には、もっと詳しく勉強しようとはしない。
 ロシアでは、学校に行かなくても試験を受ければ卒業できる。11年生で自分の好みに合う学校を選択できることから、学校間の競争がある。物理専門・化学専門高校があり、自分で特徴ある学校を選ぶことができる。ロシアの学生はそれぞれの専門学校の特徴を見極め、それぞれの優秀者が大学に合格する。学校のランキングの指標も違う。日本は大学の進学率・有名校への進学を基準とするが、ロシアでは専門校を選択することから、ランキングは存在しない。
 日本では、芸能・運動などの大会はあるが、ロシアのように、物理学・化学・地理学・語学などの大会はない。
 日本では最近、教育改革が叫ばれているが、就職制度・入学制度ばかりでなく社会システムを変えない限り、改革は進まないと思う。

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後列中央がトルストグーゾフ氏

「会報」No.15 2000.6.15