函館とロシアの交流の歴史について研究している、函館日ロ交流史研究会のページです。 このページは、会報をはじめ、これまでの刊行物や活動成果を公開しています。

「函館・日ロ交流フォーラム」を聞いて思ったこと

2012年4月24日 Posted in 会報

奧野進

 「函館とウラジオストク 都市の発展と大学の役割」と題されるシンポジウムが開かれるというので、ちょっと足を運んでみた。「国際化」、「地域」、「大学」、「情報化」など、現在、話題となることの多いこれらの言葉と関係の深い、このテーマの中で、どのような議論がなされるのか興味があったからだ。中でも、ロシア極東国立総合大学函館校と公立はこだて未来大学という全国的に見てもユニークだと思われる二つの大学が、今後地域としての函館とどういう関係を築いていくのかは、ぜひとも聞いてみたい内容であった。自分の中でも、この二つの大学はユニークだと感じていながら、当日いただいたパンフレットに実行委員長の五嶋慶太さんが書いているように、ロシア極東大学函館校がどこにあるかも分からないという自己の不明さを感じていたからかもしれない。
 実際に講演やパネルディスカッションを聞いた感想としては、ちょっと物足りないというのが正直な感想だった。もちろん、時間が短かかったこともあるだろうが、これから本題へという段階で終わってしまったように思う。冒頭であげた様々な言葉も交え、理想や一般的な範囲内での課題や方向性は提起されてはいたが、「具体的には?」「現実は?」といった点で疑問が残る。
 今後、未来大学もロシア極東大学函館校もそれぞれの分野で、一方では世界や日本全国を意識しながら、また一方では地域との結びつきを強め、まちに開かれた大学を目指すのだろうが、一市民としての自分とどういう関係になるのか、ぜひとも聞いてみたい。
 インターネットやネットワーク化といっても、その情報が生み出される私たちの生活や活動と、どう関係していて今後どういう方向が考えられるのかは示されなかった。蓄積されている様々な過去の情報ほかに、日々新しい情報が生み出されている。どんな情報があり、どんな意味を持つのか、その情報の内容も含めた、そういった目で地域を見つめてほしい。ごく表面的なことや言葉のイメージに惑わされ、掲げられている多くの理念が表面的なもので終ってしまうのではないかという危機感を感じる。言葉と現実の間に大きな溝があると感じている人も多いのではないだろうか。
 総体としての函館にかかわるような、これらの大学と住民としての個人が直接関係がないという人、地域のことと一住民とでは次元が違うという人もいるかもしれないが、いくら大きなことでも、最終的にはそれぞれの個人が、賛成であれ反対であれ、なんらかの意見が言える、そのための提案を聞いてみたい。今は、両校ともに関心がない人が大多数であろうが、多くの人を引きつける、そういう魅力や将来性はもっている大学であるとも思う。
 現在の状況が劇的に変わることは期待していない。しかし、徐々に変える、その実践の指針だけでも示すような討論があって欲しかった。

「会報」No.14 2000.1.20 特集 函館・日ロ交流フェスティバル