函館とロシアの交流の歴史について研究している、函館日ロ交流史研究会のページです。 このページは、会報をはじめ、これまでの刊行物や活動成果を公開しています。

函館こそがロシアセンターの設立に相応しい

2012年4月22日 Posted in 会報

ロシア極東国立総合大学函館校  校長 S・イリイン

 S・イリイン氏は、ロシア極東国立総合大学の東洋学部部長、東洋大学学長を務められて、昨年(1997)11月から函館校の校長として赴任されました。この間に、1994年9月のウラジオストクに於ける函館日ロ交流史研究会とウラジオストクのロシア科学アカデミー極東諸民族歴史・考古・民族学研究所とのシンポジウムで御報告され、1996年には当研究会の鈴木会長が東洋大学を訪問した折りに交わした、大学との研究交流を進める「覚書」にサインされるなど、私たちの研究会と深い関係にあります。函館においでになってからは、学校の運営のみならず日ロ交流と理解のために、文字通り東奔西走の日々を過ごされているようです。
 7月17日の談話会では、函館校の世界的な位置とその役割、「平和条約」の締結へ向けての「プラン」への参画、極東地域の日ロ住民の相互認識の違い、函館校と当研究会との共同事業の提案など、具体的かつ多岐にわたるお話をして下さいましたが、その要旨は次のようなことでした(文責事務局)。
     
函館校の位置と役割
 ロシアの大学で外国に分校を開設している唯一が函館校である。このことはあまりよく知られていないが、今後大きな意味をもつだろう。また函館には旧領事館、ハリストス正教会、ロシア人墓地などロ日交流の歴史につながる「名所・旧跡」があり、学校はその地にある。現在卒業生は少ないが、これが5年、10年と経過するなかでロシアについての専門家が確実に増えて、函館・北海道・日本・ロシアのために働くことになる。函館校がロ日相互の交流と改善に大きな役割を担うであろう。その方向を別な側面から推進する手立てとして、来年(1991)1月から経団連の支援をえて、企業のロシアに関わる第一線の担当者研修を実施することを予定している。

ロシアセンターの設立
 函館校には、夜間に実施している市民向けのロシア語学習の「場」がある。ロ日間の平和条約締結へ向けてのプランの一つに、ロシアセンターの設立が考慮されている。ロシアにはウラジオストクなど4地域に日本センターがあるが、相互交流と情報の流れの双方向性を担保するために日本にロシアセンターを開設することが必要である、と提案し、その実現に好ましい感触をえている。函館校としては、これまでのロシア語学習などの実績のうえに、図書資料室・博物室や経済・産業見本展示室などを備えた、ロシア極東地域の総合情報センターとしての「ロシアセンター」を日本で最初に函館に設立したい、と念願している。

「沿海地方」の住民意識
 ロシアでは日本が「北方領土問題」として提起することは「日本の領土要求」と称されている。調査時点は1年半前だが、この問題に関する住民の世論調査の一端を紹介しておく。
 *これまでの外交交渉等の経過は意義をもたない(32%・中等教育程度・30~49歳・主婦と軍人・日本人の特性―狡さ)*共同開発・共同利用(16%・高等教育程度・20~40歳・日本人の特性―勤勉)*50年以上居住した、今後も住み続ける(17%・義務教育程度・年金生活者・都市労働者・日本人の特性―狡さ)*共同所有・共同管理(10%・高学歴者・日本人の特性―勤勉)*返還する(5%・20歳以下・40~60歳のインテリ)
 このような住民意識を考慮に入れながら平和条約の締結に踏み出すロシア政府は、さらにロシア国内全体の世論動向との関わりで「日本の領土要求」問題に対処していかなければならないのが現実である。
 「エリツィン・橋本プラン」に象徴されるように、ロ日関係は改善し始めている。東南アジアの財政危機、特に韓国のそれの影響は、ウラジオストクの街から韓国製品が大幅に減少し、ソウル・プサンからの航空観光便も空席が半分程度といった現象をもたらしている。ロシアのビジネスマンに、「信頼できる国・日本」という考えが、浸透し始めている。ロシア経済も従来よりも安定化傾向にあるし、平和条約の締結から「北方領土」の解決に至る道筋は早晩つけられるであろう。
 教育者としての私は、さまざまの「真実」を教えることが大事だと考えている。ロシアセンターの設立は、この点からも意義あることだ。

共同事業の計画を進めよう
 1999年はロシア極東国立総合大学設立百年にあたる。ロシアの東洋学で最古かつ最高の大学の百年を記念して、ウラジオストクでは多彩な記念事業が計画されている。函館校としても記念事業を考慮しているが、函館校開設5周年という節目の年でもあるので、相応しい内容の記念事業を実施したいと考えている。
 そこで提案したいのが、函館日ロ交流史研究会と函館校とが共催して「シンポジウムと研究会」を開催することである。早めに開催へ向けての準備会を結成して、テーマの設定、報告者の人選、そしてこれが最大の難問だが、ロシアから来函する報告者の宿泊は私や函館校の教師宅にホームステイさせるなどして経費の捻出などを検討していけたら、と思っているがいかがであろうか。

[補足]新聞報道によれば、7月下旬にウラジオストクを訪問した函館市の一行は、帰国後に「クリスノフ沿海地方行政府高等教育科学青年政策局長らが、極東大学函館校をロシアに関する情報発信拠点として機能整備する意向を表明した」とコメントした。
 談話会でイリイン氏がふれたロシアセンター構想が、前向きに検討されているのは喜ばしいことである。
 ぜひ、実現してほしい。

「会報」No.9 1998.8.1 談話会から