函館とロシアの交流の歴史について研究している、函館日ロ交流史研究会のページです。 このページは、会報をはじめ、これまでの刊行物や活動成果を公開しています。

ウラジオストク訪問と私のなかの日ロ交流

2012年4月26日 Posted in ウラジオストク訪問記

奥野進

 ウラジオストクへは、もちろんロシアへも初めての旅。研究会としての訪問が決まったときには少し迷ったが、いいチャンスだと思い参加することにした。文化訪問団の一員として、交流事業を行うという点も、単なる観光とはまた違った楽しみがある。とにかくまだ見ぬ国への第一歩を踏み出すことにしたのである。
 そもそも私自身が本格的に「日ロ交流」に携わるようになったのは2003年12月に研究会創立10周年を記念して開催されたシンポジウムからである。函館にはロシアゆかりの旧領事館やハリストス正教会といった建物が残され、その面影を見ることができるが、はるばるサンクト・ペテルブルグから来函したガリーナさんが語った「函館の思い出」はその何倍も興味深いのもで、なんともいえず感動的で、気持ちが高ぶったことを覚えている。
 昨年、2004年7月のアルセニエフ博物館職員の訪問も私にとっては大きな転換点であった。主任研究員イライダ・バプツェヴァさん、写真所蔵専門家イライダ・クリメンコさんに加え、日本センター職員で通訳として来函したオリガ・スマローコヴァさんの3人、市立函館博物館職員とともに、企画展の展示作業のお手伝いができたことは、交流を実感するよい機会となったのである。
 そして、今回のウラジオストク訪問。交流の柱はアルセニエフ博物館での展示作業協力と、日本センター日本文化同好会との交流、そして日本人街の散策であったが、いずれも会ゆかりの人々が「架け橋」となって交流事業を支えていたことに、交流を積み重ねることの大切さを感じさせられた。アルセニエフ博物館アレクシュク館長をはじめ職員の方々、日本センターのオリガさん、そしてモルグン先生をはじめとした極東大学の諸先生・通訳の方々などの暖かな歓迎で、短い期間のなかでは盛りだくさんの内容であったと思う。
 アルセニエフ博物館では、佐野館長(市立函館博物館)とともに展示作業を行ったが、バプツェヴァさんなどスタッフの協力を得ながら、「函館にみるロシアの面影」と題した会独自の展示コーナーを担当できたことも大きな成果であった。8年前、大学時代に市立函館博物館で受けた実習以来の「博物館実習」となったが、久しぶりに「展示」について考えるよい機会となった。作業のほかアルセニエフ博物館と極東大学附属博物館、日本センターでそれぞれ展示を観ることができたが、アルセニエフ博物館では、地域博物館としてのわかりやすく親しみやすい展示、極東大学附属博物館では、図鑑を見ているような学術的で体系的な展示、そして日本センターでは、小さいながらも交流活動の具体的な成果としての展示と個性を異にする展示に接することができ、交流を表現するためのヒントも多かったように思う。
 この『ウラジオストク訪問記』の編集と並行して、現在、研究会で発行予定の清水恵『函館とロシア その交流の軌跡』を編集している最中だが、清水さんの「国際化」に関する、「後世の函館市民にとって現在の歴史が魅力的な"歴史"となるような内容であってほしい」との言葉が印象的である。
 今回の訪問を経験し、改めて私と日ロ交流史について考えてみると、実は私のなかの「国際化」は自分のすぐ近くにあり、それはこの「函館」という地域に住む「自分」の問題でもある、ということがよくわかる。旧日本人街で、日本人の足跡をたどりつつ、かつて、ほんとうの意味での「国際交流」を実践していた人々の一面に触れること、それも現在の「国際交流」を考える一つのヒントなのだ。今回のウラジオストク訪問は、研究会にとってももちろん、私自身にとっても大きな財産となった。